札幌地方裁判所 昭和38年(わ)407号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(罪となるべき事実)
被告人は、昭和三八年二月一五日、国鉄労組中央本部の指令に基いて、札幌地本が、小樽市若竹町所在国鉄小樽築港駅構内において、午前六時から午前七時まで一時間の「時限ストライキ」を実施した際、これに参加し、国鉄第一信号扱所関係のピケ隊の責任者として、指名されていた。札幌地本現地斗争本部は、同日、争議時間帯に入る午前六時少し前に、この時間帯において、最初に同駅に入構する下り本線第四一旅客荷物混成列車の機関士に対する争議参加協力の説得、並びに、本件争議に公安職員、警察官を出動させている国鉄当局及び警察当局に対する抗議と示威を行う目的をもつて、同駅構内若竹踏切に組合のピケツトを配置することを決定し、被告人を、右ピケ隊の直接指揮者に指名した。そこで、被告人は、右指令に基き、同日午前六時すぎころ、同駅第一信号扱所階段上から、同信号扱所周辺に集つていた約六〇〇名くらいの国鉄労組ならびに支援労組の組合員に対し、「これから七時までの時間帯に、列車の入構を阻止するから、統一ある行動をとつて下さい、皆さん、私の指示に従つて下さい」旨要請し、右組合員等と共謀のうえ、被告人が、約四列ぐらいの縦隊に並んだ組合員約五五〇名を指揮して、同信号扱所から二四〇メートル小樽駅寄りの若竹踏切に赴き、午前六時一四分ころ、若竹踏切の小樽築港駅寄りの端に、右ピケ隊の先頭の停止位置を指示した。
同所においてピケ隊は下り本線線路に沿つて、その両外側の枕木の端附近に、一列づつ二列が向い合つた態勢で約一〇〇メートルの長さをもつて立ち並び、スクラムを組んだり、労働歌を歌つたりして気勢をあげ、札鉄局営業部長三村勲より再三にわたつて、同駅構外に退去するよう要求されながら、これに応じなかつた。そのため午前六時三〇分ころ、札幌行第四一旅客荷物混成列車を、若竹踏切の約一六五メートル小樽駅寄りの下り本線線路上から小樽築港駅に向け、手旗により誘導していた小樽築港駅輸送総括助役竹下茂は、午前六時三一分ころ、同踏切の約五〇メートル小樽駅寄りの地点において、右列車の機関士長谷川正十四に対し、余儀なく停止の合図を送つた。被告人の指揮する右ピケ隊は、引き続き同日午前六時四八分ころまで前同様、線路両外側にレールと接近して立ち並んで右第四一列車の進行を阻止し、もつて、威力を用いて国鉄の列車運行業務を妨害したものである。
(法令の適用)
被告人の判示所為は、刑法六〇条、二三四条、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するが、違法阻却事由たる正当なる争議行為の過剰行為としての責任を問うべきであるところ、右所為は国鉄労組札幌地本の実施した正当な争議行為の際に、正当な目的を有するピケツテイングとしてなされたものであるが、その手段、方法において正当性の程度を超えて惹起されたものであるから、刑法三六条の正当防衛の要件を充すものではないけれども、なお同法条二項の趣旨を準用してその責任を定めるのが相当である。そこで犯情につき考察する。本件若竹踏切におけるピケツテイングは、札幌地本の当初の斗争計画としてはあげられていなかつたのであるが、国鉄当局側が争議前から、争議現場附近に公安職員を出動配置したり、警察官が小樽築港駅において情報収集活動を行つている事実を察知した札幌地本現地斗争本部が、当局側に抗議する趣旨を含めて、争議時間帯直前に、急拠右ピケツテイングを実施することと決定して、被告人をその直接指揮官に指名したものであり、被告人は、右現地斗争本部長の指揮のもとに行動したことが認められる。また、本件ピケツテイングは、列車の運行を完全かつ終局的に阻止する態勢にまでは至つて居らず、全体の態様としては、線路の両外側、進行する列車に接触するかしないかの位置にかなり整然と立ち列んで居り、組合役員の指示があれば、直ちに進行する列車の進路が開放され得るという状態にあつたこと、ピケツトが実施されている間、ピケ隊の一部が線路内に入つたり、気勢をあげて前後左右に流動するなどの行動があつたが、集団行動として、ある程度の逸脱行動はやむを得ない面もあるうえ、被告人ら組合側役員は、ピケ隊に対し、線路内に立入らないよう、絶えず注意を与えていることが認められる。組合側が、ピケツトを直ちに退去させなかつた原因の一つとして、国鉄当局側が右ピケツトの現場に、公安職員約七〇名を出動させて、ピケ隊を実力でもつて排除しようとする状況にあり、また、従来の労使間の慣行に反して、国鉄当局が警官隊の出動を要請し、そのため警官隊約三五〇名がピケツトの現場附近に出動待機していたことなどが、組合側を刺激したことが考えられる。しかも、ピケ隊は公安職員が実力行使にうつる直前に、組合役員の指示により自らピケツトを解いて退去しはじめて居り、公安職員の実力行使に対しては、まつたく抵抗していないため、混乱は殆んど、生じていないことが認められる。以上の諸事情を総合すると、本件ピケツテイングが、全体として、その手段、方法において、正当性の範囲をある程度こえ、第四一列車の運行を四三分遅延させるなど、国鉄の列車運行業務に影響を与えたとはいえ、集団行動においては、それがとかくその指揮者の意思を離れて正当な範囲を逸脱しがちであることを考えれば、たまたま、本件ピケツテイングの現場指揮者に指名された被告人のみの責任を追求するのは公平を失し、被告人に対しこの際刑を科するの要を認めないから、前述の如く同法三六条二項の規定を準用し、被告人に対し刑を免除することとする。(辻三千雄 角谷三千夫 下沢悦夫)